「Tさんのこと」
これまで多くの学生さんとおつき合いをしてきました。強く印象に残っている人も数多くいますが、やはり自分のゼミ生だった人がよく覚えていますね。
Tさんはゼミ生ではなかったのですが、忘れられない人物のひとりです。もう卒業して十年以上になるでしょうか・・・。
彼が2年生か3年生くらいの時だったと思います。急に私の研究室を訪ねてきました。それまであまり話したこともなかった学生だったのですが・・・。
彼によると、「恋人が亡くなったので、お通夜・お葬式へ行くことになった。どのような服装が望ましいのか、どんな準備をしていけばいいのか、教えてほしい」とのことでした。あえて詳しい事情は尋ねませんでしたが、やはりかなり大きなショックを受けている様子はありありとわかります。
その時は、一般的な弔問の作法や心得事を伝えました。
数日後、Tくんはまた研究室へやってきて、「先日はありがとうございました。彼女のお葬式でいろいろ考えさせられました」などと話しました。
彼は卒業後、葬儀社へと就職しました。
「彼女のお葬式はとても生と死を考えさせられる素晴らしいものでした。自分もこのような仕事に就きたいと思いました。」これが、彼がこの仕事を選んだ理由でした。
彼は今もその会社に勤めています。きっと他者の痛みや悲しみに寄り添うような、心のこもったお葬式をしているに違いありません。
学長 釈 徹宗
2022年8月24日
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