2023.07.12
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学長メッセージ

学長メッセージ(その6)

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 昨年の8月以来のメッセージとなります。たいへんご無沙汰しております。

 さて今年は、中世の念仏者・親鸞の生誕850年に当たります。親鸞聖人の生涯は(学術的には)不明の部分が多いものの、生誕の年は1173年であることがわかっています。
 親鸞聖人は、自分自身の罪や悪の問題と向き合い続けた人で、晩年近くに創作した『正像末和讃』には、「悪性さらにやめがたし、心は蛇蝎のごとくなり」といった深い内省を告白しています。日本の宗教風土においては、こういうタイプは稀有だと言えます。
 また、「いしかはらつぶてのごとくなるわれらなり(石・瓦・礫のような私たち)」(『唯信鈔文意』)という言葉も書いています。ここには、世の中から排除される人々と共に立つ親鸞聖人の立ち位置を窺い知ることができます。親鸞が歩んだのは、自らも含めて、道端の石ころのような人々が悟りを開く仏道だったのです。
 ところで、近年、日本の若者の自己肯定感(セルフ・エスティーム)や自己効力感(セルフ・エフィカシー)の低さが国際比較調査で注目されており、小中高校の教育現場の課題となっているのをご存知でしょうか。いかにして生徒たちの自己肯定感を育むかが議論されているわけです。自己を肯定できずに辛い思いをしている子どもたちにとって、自己肯定感や効力感は生きる上で必要でしょう。自己否定し続けながら生き抜くことはとても困難ですから。
 その一方で、親鸞のように自己が抱える負の面をごまかさず、向き合い続けた人にも注目したいと思うのです。そこから芽吹いた思想は特有の強さと魅力を放つからです。そして自己肯定感や自己効力感がやせ細った現代人にとって、むしろ徹底的に自分の不確実さやニセモノ性を掘り下げる道もあるかもしれないですね。これ、イバラの道だけど......。
 さて、考えてみれば、相愛大学が存在しているのも、850年前に生まれた人がご縁であるとも言えるわけです。850年前に生まれた親鸞が機縁となって、日々、大阪の南港へ出勤していると思うと、ちょっと雄大な気分になります(笑)。
 私の心は、日常に追われて汲々としており、委縮しています。でも時に、自分が大きな生命の流れの中にあることに思いをはせると、呼吸が少し深くなる気がします。

学長 釈 徹宗
2023年7月12日


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